カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2024.1.12(金) 煮込む

夕食を食べたあとスーパーに行く。
肉のコーナーに人だかりができていたので何かと思えば、割引シールが貼られたところで半額になった豚バラ肉のかたまりを求める人の群れだった。
私もひとつ買ってみることにした。
豚バラブロック、500グラム。
これをどう調理してやろうかと考え、ここは王道の角煮だという結論に至るまでたったの1秒だった。
もはや考えていない。
見つけたときからもう決まっていたのだ。

子どもたちが寝て、静かになったキッチンで調理にとりかかる。
長ネギの青い部分を切る。
豚バラブロックを手ごろな大きさに切る。
フライパンを熱し、豚肉を強火で焼く。
全面に焼き色がついたら、水、醤油、砂糖、はちみつを入れる。
ショウガを買い忘れたので、チューブのショウガで代用する。
ネギの青い部分も入れてクッキングペーパーで落し蓋をする。
ふたをして弱火で40分煮込む。

火の番をしながら庄野潤三の短編「萩」を読む。
風の強い丘の上に引っ越したがために、風よけとして萩の木を植える五人家族の父親の話。
父親は思いのほか大きく伸びた萩の木に驚いている。 

 この萩を近くの山から取って来て、ここに植えたのは、二年前のことだ。それは随分ちっぽけな萩であった。見つけたのは上の男の子の安雄で、あの時は小学五年生であったが、その膝よりもまあ小さかった。
 まさかあれがこんなに大きくなるとは思わなかった。

出典:庄野潤三「萩」(講談社文芸文庫夕べの雲』所収)

そして父親は木が土に根を張るように、ひとところに長く住むことが良いのだと考える。

ひとところに暮らしていると、長い年月の間にそこでいちばん住みよいようにあらゆる努力をしているものだ。そうして、うまく行かないことは目立つが、うまく行っていることというのは案外、目立たない。それらは、一日にして成ったことでなくて、木のひげ根が邪魔になる石をよけたり、ほかの木の根の間をくぐったりして、何とか都合をつけて、水と養分を送っているようなもので、掘り起こしてみるまでそんなことは分からない。

出典:同上

転勤族としてこの街に越してきて、勤めていたその会社を辞め、この地で店を始めた。
それは、当面はこの街で暮らして行くということを意味する。
曲りなりにも築いてきた生活の基盤を、これから、より確かなものにしていくのだということを考える。
そうしているうちに豚の角煮ができた。
ひとくち味見をしてみる。


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