カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.6.2(金) 「ゾンビ」

ガソリンスタンドで給油していたら、近づく影がある。
手にチラシを携えた美女が、こんにちはと笑顔で言ってくる。
アプリを登録してほしいらしい。
このシチュエーションは前にもあった。
そのときは登録お願いしますとチラシを渡された。
給油後、助手席にそっと置いたチラシはそのままどこかへいってしまった。

多くのチラシがそのような運命を辿ったのは容易に想像ができる。
店側も登録者を増やすのに対策を講じたに違いない。
ガソリンがリッター当たり5円引きになると説明があり、「すぐに登録できますのでー、」とここまでは前回と同じだ。
わかりましたーと受け取ろうとしたその時、美女は言ってきた。
渾身の笑顔で。
「いま、いっしょに登録しましょう」と。
ハートが3つくらい付いていた。
どうして断ることができようか。
このシチュエーションで「いえ、けっこうです」と言えるおじさんがいるとしたら、あなたはきっと神か仏。
まんまと店側の策略に乗せられた私は、QRコードを読み取っていた。

 

村上春樹の短編「ゾンビ」を読んだ。
男と女が真夜中に道を歩いている。
そばには墓地がある。
なんだか嫌な予感がしている。
男は女に懐疑の抱く。
歩き方がみっともない、がにまた、耳の中にあるほくろが下品だ、ブラウスの襟が汚れている……
とにかく女をけなし始める。
女がゾンビだったというオチを予想したところで、男が突然頭を抱え苦しみ始める。
皮膚がはがれ、赤い肉が剥き出しになり、男は女に襲い掛かる。
そんな話だった。


ガソリンスタンドの美女も、給油する私もゾンビだったのかもしれない。
だってそうでもないと、あんな美女が真昼間のガソリンスタンドでアプリの登録を促してこないだろう。
そのことに気づいているのは、たぶん、わたし…だ…け……


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