カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

四月一日生まれの叔母のこと

僕の母は九州の離島で生まれ育った。
母は五人姉妹の三女で、高校卒業と同時に福岡で暮らし始めた。
ほかの姉妹たちも一番上のお姉さんを除いてみな同様に、学業を終えると故郷の離島を出て働き始めた。
そしてみな、結婚し子どもを生み育て、やがては孫も生まれ、今も福岡に住んでいる。
僕が高校生か大学生くらいまでの頃は、盆や正月にそれぞれの家族で集まって宴会が催された。
僕はそれをささやかな楽しみにしていた。最近はいろいろな事情もあって、集まりが開催されることは滅多になくなったので少し寂しい感じもしている。
集まる場所はたいていの場合、次女のY子おばさんの家だった。


冒頭で母は五人姉妹と書いた。
実は母が生まれる前にもう一人女の子がいたのだが、生まれてすぐに病気で亡くなったそうだ。
つまり六人姉妹の可能性もあったということだから、昔の家族はすごいなと思う。
ちなみに父は全員男の六人兄弟の四男だ。
子供の数もさることながら、偏りがすごい。


話がそれてしまった。
Y子おばさんの話だ。
母の姉妹たちは、みんなそれぞれに少しずつ似ている。
顔もそうだし背格好も同じような感じで、みなおしゃべりなところまでよく似ている。
なんだけれども、Y子おばさんはちょっとだけ雰囲気が違う。
背も他の姉妹に比べると少し高くて、話すトーンも少しだけ落ち着いている。
そして顔もわずかばかり大きい。
姉妹の間ではときどきこんな会話がなされていた。
Y子おばさんが写っている写真をみながら、
「おぉ~、Y子姉さん、今日もがんばっとんしゃあねえ」
「こっちも、ようがんばっとる」
(※「がんばっとんしゃあ」は九州の方言で「頑張ってらっしゃる」の意味)
つまり、顔が大きいことを「頑張ってる」、もっと言うと「頑張って顔を大きくして写真に写っている」と表現しているのだ。
なんという修辞法だ。
決してばかにしているといったことはなく、Y子おばさんも含めみんなでげらげら笑っているんだから幸せな人たちだなと、僕はよく思ったものだ。


そしてそのY子おばさんの誕生日が今日、4月1日だ。
この誕生日にもひとつ逸話がある。
Y子おばさんが生まれたのは本当は4月1日ではなく、3月の末頃だったそうだ。
早生まれになってしまうのがかわいそうだという理由で、おばの父、つまり僕の祖父は出生届を4月1日付で出した。
昔の田舎ではそういうことはよくあった話なんだそうだ。


しかし、よくよく考えてみると、学年の区切りは今も昔も、4月2日~翌年4月1日生まれだ。
結果として、Y子おばさんは早生まれのままということになった。

噓のような本当の話だ。
Y子おばさん、誕生日おめでとう。