カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.5.22(月) 「TVピープル」

母親のことを書く。
といってもたいしたことではない。
偏頭痛もちであんぱんが好きだったというだけの話だ。

母親は偏頭痛もちで、雨が降りそうになると頭が痛いと言い、雨が降るとスッと頭痛も引くのだと言っていた。
曰く「私の頭は天気予報よりも正確だ」と。
今思えば、気圧の変化に敏感だったということなのだろうけど、幼い私はよくわかっていなかった。
幼心に大変そうだなと思うだけだった。

母は五人姉妹の3番目として、長崎県の離島に生まれ離島で育った。
母が幼かったころは、飼っていた馬に乗って畑に手伝いに行っていたと聞いたことがあるが、今の私の感覚からすると信じられない。
あんぱんがひとつ10円だっった頃の話だ。
母はおばあさんに、姉妹の中でも特別可愛がられたそうで、いつも自分だけ特別にこっそりとお小遣いやお菓子をもらっていたらしい。
1個10円のあんぱんを食べるのが楽しみで、毎日食べていたそうなのだが、たぶんその頃のことなのだろう。
私が母のもとで暮らした18年間のあいだにも、たしかにあんぱんはよく目にするアイテムだったので、よほど好きだったのだろう。
白あんを好んでいたことを思い出す。

なぜ急にこんなことを持ち出すのかと言えば、今日の私はまるで母のようだと思ったからだ。
朝は晴れていた天気も、昼を過ぎる頃には雲が厚くなり、今にも雨が降りそうな空だった。
それに呼応するように私の頭も痛みをおぼえはじめ、夕方頃まで気怠さが続いた。
結局雨が降ることはなかった。
夕食の前に襲ってきた空腹に耐えられず、キッチンを物色すると、前日に買ったあんぱんがあったので、パスタをゆでながら食べた。
頭痛とあんぱん。
遺伝しているのだろうか。

村上春樹の短編「TVピープル」を読む。
冒頭、主人公の男は日曜日の夕方という状況に頭が疼き始める。

日曜日の夕方が近づくと、僕の頭はきまって疼き始める。そのときどきによって度合いの多少はある。でもとにかく疼くのだ。

ああ、ここにも頭痛に苦しむ人がいるのだと妙な連帯感を覚え、少し可笑しくなった。

まず疼きがやってくる。そしてそれにあわせて視界がわずかに歪みはじめる。入り乱れる潮のように、予感が記憶を引き、記憶が予感を引く。

母のことを思い出したのも、これを読んだからなのかもしれない。


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