待ち時間に本を読む。
本を読む人にとって、待ち時間はありがたい。
本を読めるからだ。
待ち合わせ、駅、役所、病院、いろいろな場所で待ち時間は発生する。
人によっては待ち時間は忌避の対象かもしれない。
ただただ時間だけが過ぎていき、何の生産性もない。
無駄な時間にも思えるだろう。
しかし1冊の本さえあれば、その時間は豊かなものへと変質する。
だから私は待ち時間を好む。
わざわざ早く出かけて、待ち時間を確保することもある。
存分に本が読める。
今日は次男の小学校の入学式だった。
登校して式が始まるまでのあいだ、新一年生は教室で準備やらなにやらやっている。
保護者は体育館で待つことになる。
式が始まるまでに30分もある。
恰好の待ち時間だ。
配られた書類に目を通すと、もうすることがない。
本を取り出して読む。
隣では妻が次に注文するビールを選んでいる。
我が家では全国のクラフトビール用のサーバーがある。
好きな銘柄を選択し自宅に届いたビールを、サーバーから注いで飲むことができる。
それは妻の楽しみのひとつとなっている。
新しい醸造所がラインナップに追加されたらしい。
入学式の待ち時間に、本を読む夫とビールを選ぶ妻。
割といいかげんな夫婦だと自覚している。
ちょこちょこ読み進めている『おいしいアンソロジー おやつ』もやっと折り返し地点を通過した。
エッセイスト・酒井順子がかっぱえびせんについて論じていた。
「カルビーかっぱえびせんは、おいしいから『やめられない、とまらない』のか、それとも『やめられない、とまらない』からおいしいのか」
酒井順子は、ひたすら食べ続けることにおいしさの秘訣があるのではないかと考える。
ひとつだけ食べてみてもとくべつに美味しいわけじゃない。
しかし、ふたつみっつと食べすすめるうちに、おいしさが増幅されていくのだと。
そしてそれは「肉体的な快感をも伴う」と。
お腹が減ってきたところで、もともと式のあとに予定されていた配布資料の確認・説明が始まった。
保護者の体育館への移動・集合がスムーズにいったことを感謝された。
本を読んで、ビールを選んで、かっぱえびせんのことを考えていただけで感謝されることもあるのだ。
待ち時間は楽しい。