カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.11.25(土)エディオンスタジアム、ラストゲーム

「最後尾はあの山の上です」
何のことを言っているのかわからなかった。
もういちど係りのお兄さんに聞いてみる。
「バック指定席のチケットを持っているのですが、どこに並べばいいのですか」
何度も同じ質問をされ、何度も同じように返答しているであろうお兄さんは、同じように慣れた言い回しで説明してくれる。
「ちょっと今どれくらい列が伸びているのかわからないですけど、最後尾はこの広場を越えて、あの階段をのぼった山の上です」
お兄さんの説明に沿うように視線をやった山の上には、確かに長い行列ができている。
人々はその行列の最後尾を目指して、ぞろぞろぞろぞろ歩いている。
山の上の列がどこからどう伸びているのかわからないが、目の前の広場を取り囲むようにできている行列も、どこかで接続している一続きの列なのだろう。
ハイキングをしにきたわけではない。
サッカーの試合を観に来たのだ。
私たち家族も、あの山の上で行列をなしているひとたちもサンフレッチェ広島のファンで、エディオンスタジアム最後の雄姿を見届けに来ただけなのだ。
それなのに山登りをさせられているこの状況は、祝祭というに相応しい幕開けじゃないか。

来シーズンからのサンフレッチェ広島の新ホームスタジアム移転に伴い、現在の本拠地であるエディオンスタジアムでの試合は、今日この日、ガンバ大阪との一戦をもって終了となる。
そのメモリアルな一戦のチケットは完売し、30000万人が来場することになっている。
自由席のいい場所を確保するため、あるいは先着の10000名に配布される記念のTシャツをゲットするため、いろいろな理由で会場に来た30000万名をスムーズにさばけるほどのキャパシティは、おそらくこのスタジアムにはない。
入場の列だけでなく、グッズを買い求める列、本(何か記念の本が販売されていたのだろう。並んでいる人に聞くと「本」と言っていた)を買い求める列、ガチャを引く列、食べ物を買うための列、いたるところに行列ができていて、そのれつには最後尾のプラカードを掲げたスタッフがいた。
最大限のオペレーションをもってしての結果が、山の上の行列であることは致し方ないだろう。
最後の一戦を見届けるために集ったサポーターたちは、驚きを示しつつも行列の最後尾を目指して歩いた。
まさか最後にこんな画角でエディオンスタジアムをみることになるとは思っていなかったが、これはこれで記念になる。
誰もがそう思っていただろう。


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行列が動き出し、登ってきた山をくだってスタジアムのなかに入るまでにサッカー一試合ぶんくらいの時間は要した。
席に着いた頃にはゴールキーパーの練習がはじまるところだった。
今日の試合は、エディオンスタジアム最後の一戦であると同時に、サンフレッチェの一時代を築いたときの守護神、ゴールキーパー林卓人選手の引退試合でもある。
サブのキーパーとしてベンチに入った林選手がフィールドに姿をみせると、サポーターはチャント(応援歌)でエールを送った。
林選手もそれに応え、練習に入った。

練習が終わり、キックオフの時間を迎える。
選手たちが入場し、試合前のセレモニーが始まる。
観戦席に配布されたプレートを掲げ、コレオグラフィーで作ったサンフレッチェのエンブレムは秋の空と緑のスタジアムによく映える美しさだった。

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試合が始まり、序盤から怒涛の攻撃でガンバゴールに迫るサンフレッチェは前半8分、加藤のクロスをエース満田がヘディングを合わせ先制。
その2分後にはルーキー中野のゴールで2-0、最高の試合展開を見せる。
その後もガンバにチャンスを与えることなく攻め続けるサンフレッチェは後半8分、加藤のコントロールを効かせた見事なミドルシュートで追加点を決め3-0、勝利を決定的なものにした。
そのあとも猛攻の手を緩めることなく迎えた後半37分、選手交代によりキーパーの林がピッチイン。
30000万人のチャントに迎えられゴールについた林選手は、その雄姿を私たちの目にしっかりと焼き付けてくれた。
サンフレッチェは最後まで攻め続け3-0、完全勝利でエディオンスタジアム有終の美を飾った。

試合後にはスタジアムラストセレモニー、林選手の引退セレモニーが執り行われ、涙と共に30年の幕を閉じた。
その場に立ち会えたこの日のことを私はずっと忘れないだろう。


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