カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.7.2(日) 『タタール人の砂漠』

日曜日。晴れ。
いつものパン屋にいつものパンを買いに行く。
買いたかったサンドイッチが売り切れ。
出かけたついでに詰め替え用のシャンプーも買う。
息子ふたりは近所の子たちといつものように遊んでいる。
娘はお腹空いたとしきりに食べ物をせがんでくる。
標準的な日曜日。

同じような毎日でも、昨日とは違う発見や喜びがあると思ったり、いや、やっぱり昨日とは区別のつかない今日があったりと、そんな間(あわい)を行ったり来たりしている。

ブッツァーティの『タタール人の砂漠』はまさにそんな作品だ。
士官学校を卒業し、将校となった主人公ジョヴァンニ・ドローゴは、バスティアーニ砦に配属される。
学業を終え、社会人として働き始める際の気負いは、程度の差こそあれ多くの人が抱くのではないだろうか。
私もそうだった。
もう十数年も前の四月、地方から新入社員研修のために東京に赴き、1ヶ月ばかり会社の寮で暮らした。
4月1日、同期の連中と電車に乗って会社のある街へと向かった。
駅に着いた頃、私の心は折れていた。
それまで私は電車で通学などしたことがなく、満員電車への耐性があまりにもなかった。
そして私が乗っていた電車は、都内でも有数の乗車率を誇る路線であった。
田舎者の私に、東京は無理な場所なのだと悟った。
乗車時間20分くらいのあいだに、心身ともにゲージはゼロになった。
幸いにも私の配属は地方の支店であったため、その1ヶ月だけをやり過ごせば良かったが、もしも都内の勤務だったらと思うとぞっとする。
私はあの日あの時、満員電車とは無縁の生活を送ろうと心に決め、いまのところ無縁の生活を送っている。
タタール人の砂漠』に話を戻そう。
私の心が満員電車によって砕け散ったように、ジョヴァンニ・ドローゴの心もまた打ち砕かれることになる。
ジョヴァンニ・ドローゴが配属されたバスティアーニ砦は、険しい山道の上った先の国境線にあり、敵に襲われたことのない無用の長物とでもいうべき砦であった。
ジョヴァンニ・ドローゴは砦に着任した瞬間、勤務地の変更を申し出る。
というところから始まる物語。
この砦での生活がどのように続いていくのか、これから見守りたいと思う。
100ページほど読んだ段階では、まだ何も起こっていない。


f:id:cafeaulait-ice:20230703010604j:image