朝、いつものように玉子焼きを作ろうと冷蔵庫を開けた。
卵が一個しかない。
そんなはずはない。
昨日、確かに2つあった。
あったからこそ、昨日卵は買わなかったのだ。
なのに、ない。
いったいどうしたことか。
卵ひとつで作るには、心もとないので玉子焼きはパスすることにした。
おかげで子どもたちの朝食はウィンナーの2種盛りになった。
卵はどこに行ってしまったのか。
わかったぞ。
昨日私がサッカーを観に行っているあいだに、ホットケーキでも作ったんじゃないか?
確かホットケーキミックスがあったはずだ。
何日か前に、食いしん坊の次男がホットケーキ食べたいと言っていたし。
そうだ、そうに違いない。
ホットケーキを食べたんだな。
いや、まて。
昨日、私がサッカーを観に行っている時間、次男はどこにいた?
私といっしょにサッカーを観に行っていたではないか。
ホットケーキを食べるなんて言い出すのは次男だけだ。
その次男にはアリバイがある。
ホットケーキの線は消えたな。
となると、次の可能性。
妻、長男、長女のなかで、一番怪しいのはやはり妻だろう。
ははーん。わかった。
昨日の昼食にチキンラーメンを食べたんじゃないか?
チキンラーメンに卵をのっけて食べるという贅沢をしたんじゃないか?
チキンラーメンのあの凹みに卵を落として、ふたをして、できあがるまでのその時間も楽しんだんじゃないだろうか。
「きのう何食べた?」
「子どもらマクドで、私は丸亀」
チキンラーメン説も消滅した。
「ちなみに卵の行方を追ってるんだけど、知らない?」
「焼かれるのが嫌で逃げたんちゃう?」
「足生えてたっけ?」
「さあ?ハンプティダンプティじゃあるまいし。転がっていったんちゃう?おむすびころりんみたいに、ころりんころりんって」
「ああ、なるほど。じゃあ穴があったらそこに落ちてるかも?」
「そうやな。アリスインワンダーランドやな」
「ほな、もうハンプティダンプティやん」
「解決やな」
「解決ゾロリや」
妻をあてにしたのが間違ったみたいだ。
残る容疑者は長男と、娘の二人。
娘に直球で聞いてみた。
「卵食べた?」
「うん、たべた!」
直球が返ってきた。
でもこの娘には虚言癖があることを私は知っている。
経験上、こう言ってるときは食べていない。
あれれ~、おかしいぞ~、僕の身長じゃ冷蔵庫の扉に届かないなあ。
コナン君がここにいれば、きっとそう言っているはずだ。
コナン君の言うとおりだ。
3歳の娘にはまだ冷蔵庫を自在にあけて、卵を取り出して、なんらかの調理をすることは不可能だろう。
お嬢ちゃんにはまだ早いぜ。
そうなると、残りは長男だということになる。
そういえば朝から口数が少なかった。
下手にしゃべってボロをだすのを恐れていたのだろう。
もしもこれが古畑任三郎であったなら、ここで舞台は暗転し、ちょっとした一人語りのあと犯人を追い詰めていくことになるだろう。
だけど考えてみてほしい。
相手は子どもだ。
そして私はその子の父親だ。
たまごひとつで、そこまでする必要があるだろうか。
仮に本当に犯人が長男だったとして、だったらどうなんだという話だ。
たまご食べたくなることだってあるだろう。
魔が差す、なんていうこともある。
あるいはお腹が空いていたのかもしれない。
だとしたら自分の力で、卵をつかって空腹を満たしたということになる。
それは称賛に値することではないだろうか。
そうだ、ここは褒め称えよう。
我が息子よ、汝ら善き行いをもってその身の飾りとせよ。
光あれ!
彼の名誉のために書いておくと、卵については知らないということであった。
真相は藪の中。