カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.4.26(水) 卵を焼く

 彼は手をあげて、二杯目のカフェ・オ・レを注文した。
「ところで、納屋のことはどうなったの?」と僕は思い切って訊ねてみた。
 彼は唇のはしで微かにほほえんだ。「納屋ですか? もちろん焼きましたよ。きれいに焼きました。約束したとおりね」
村上春樹「納屋を焼く」(『螢・納屋を焼く・その他の短編』所収)より引用

 

毎朝のルーティーン、玉子焼きの作り方を書く。
試験の問題が解けないときにカレーの作り方を書くのと同じ理屈で、日記に書くことがないので書く。
焼いて書く、書いて焼く。
つまるところ、人生とはそれの繰り返しだ。

 

玉子焼き用の四角いフライパンを取り出す。
我が家ではevercookのシリーズを使っている。
つるつる加工でまったく焦げ付かない。
コーティングが剝げることなく長持ちで、今まで使った中で一番良い。
フライパンにほんのちょっとだけ油を引く。
なくてもいいくらいの少なさで。
前述のとおり、つるつる加工が素晴らしく油なくてもいいんじゃないかと思うけど、気持ちだけ。
フライパンを火にかけ温めているあいだに、卵を2つ、小さめのボウルに割る。
塩を一振り、砂糖をスプーンで2杯入れる。
小さじくらいのスプーンに山盛りまでいかないくらいの盛り具合で2杯なので、おそらくは大さじ1くらいだと思う。
混ぜる。
卵の1/3の量をフライパンに投入し、全体に広げる。
1/3と書いたが、できるだけ薄く広げたいので、全体に広がる且つ限りなく少ない量というのが正しい。
概念としては1/3だ。
固まってきたならば巻き始める。
ひと巻目のこの瞬間がピーク。
スラムダンクの山王戦。
セリフがなくなるところ。
スッと静かに巻き始め2回、3回と巻いて端に寄せる。
残りの卵をもう一度流し込む。
これも同じように概念としての1/3を同じように巻いていく。
そして最後の1/3を流し込み、くるくるくると巻いてできあがり。
6等分にして、長男と次男の朝食に2切れずつ、娘の弁当箱に2切れと配分。
最後はバシーン!!とタッチを交わす。

このように私の朝は始まる。
毎朝同じ手順で、同じものを作っているのにできあがりが違う。
自分では食べないので味の方はわからないが、少なくとも見た目は違う。
同じなのに違う。
違うけれど同じ。
卵を焼くことは、生きることだ。


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