カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.4.25(火) 『パン屋再襲撃』

試験のアドバイスに、カレーのレシピを書いて提出せよというものがある。
記述式の問題に対する回答を導き出せないときに、何も書かないよりはまし、部分点でももらえれば御の字、洒落のわかる先生であれば丸をもらえるかもしれない。
諦めと期待を満たした助言だ。

昨日と同じ書き出しで始めてみた。
というのも、今まさに私は回答を持ち得ない問いに直面しているからだ。
「何も書くことがない、こんな日にいったい何を書けばよいのか」と問うたところで、カレーのレシピを思い出した。

ほんとうのことを言えば、昨日のブログで書こうとしたことをこれから書くつもりだ。
というのも昨日の記事は思いもよらぬ方向に進んでしまい、引き返す地点を見いだせないまま着地してしまったので、リベンジしようというわけだ。

ところで、この「リベンジ」、1999年の流行語大賞に選ばれた言葉でもある。

鳴り物入り西武ライオンズに入団したスーパールーキー松坂。150キロ台の速球と切れのいいスライダーで、16勝5敗、防御率2.60の高卒新人最多勝記録を打ち立てた「平成の怪物」。強気で負けず嫌いの彼が敗戦したゲームのあとに残したのがこの言葉。「復讐、仕返し」の意味で、巷でもさかんに使われた。「リベンジ」は格闘技K-1で以前より使われていた言葉。

ユーキャン 新語・流行語大賞 公式ウェブサイトより引用

松坂の発言以降、一般的に使われるようになって久しい「リベンジ」に関して、覚えていることがひとつある。
高校1年生のある日、現代文の授業でのことだ。
いつものように担当の国語教師Sがカツーン、カツーンと教室に近づいてくる。
長さ1メートルほどの竹の棒を地面に打ち付けながら歩いてくる音だ。
教室のドアの前まで来ると音が止む。
一瞬の静寂。
ガラッとドアが開き、入ってきた国語教師Sはフンっと鼻を鳴らす。
起立、礼、着席。
一連の始業ルーティンが終わると、国語教師Sは白のチョークを手に取り、カツカツカツと黒板に書きつける。

「レベンジ」

 

「リベンジ、リベンジと言うけれどもレベンジのほうが正しい発音に近いそうだ。英語のM先生がそう言ってました」
レベンジの部分にゆったりとしたアクセントを置き、ドスを効かせながら国語教師はそう言った。
その場にいる誰もがこう思った。心底どうでもいいと。
そしてその気持ちは、いまこの文章を読んでくれてる諸賢のそれにもそっくりそのまま当てはまることだろう。
あらゆるところに潜むどうでもいいところにも目を向けてみる。
それが昨日とは違う今日を実感できる。

朝からの雨が一日中降り続き、やむ気配がない。
私はコーヒーを淹れ、マフィンを食べる。
村上春樹『街とその不確かな壁』の主人公が毎週、コーヒーショップに立ち寄る。
そこで食べるのがブルーベリーマフィンで、私はまんまと影響され、スーパーで買ってしまった。
さすがにスーパーにブルーベリーマフィンはなかったけれど。

駅の近くの商店街を歩いているとき、乾物屋と寝具店の間にはさまれた、小さなコーヒーショップを見つけた。

村上春樹『街とその不確かな壁』より

乾物屋と寝具店の間にはさまれた店という記述で、思い当たったのは短編「パン屋再襲撃」だ。
夜中に目を覚まし空腹感を覚えた男が、かつて商店街にあるパン屋を襲撃したことがあると語って聞かせる。
そのパン屋が乾物屋と寝具店に挟まれていなかったかと思ったが、どこにもそんなことは書かれていなかった。
村上春樹の妻陽子氏の実家の寝具店がモデルになっているのではないかという読み物を、どこかで読んだ気がするがそれも定かではない。
湿気を嫌う乾物屋と寝具店の間にはさまれた云々と読んだ記憶があるのだが、結局わからないままだった。

いつかわかることがあったら、この日記の続きを書き、レベンジを果たそうと思う。


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