カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

雪苺娘 甘く淡く 粉雪のように

おまんじゅうのようにぽてっとしたドーム型の柔らかいフォルム。
外側を覆うもちもちの求肥には、粉雪のようなさらさらのパウダーがかかっている。
中にはたっぷりのホイップクリームと薄いスポンジケーキ
その中心には程よい大きさのイチゴが丸ごと1つ。

雪苺娘(ゆきいちご)である。

山崎製パンから冬季限定で発売される人気スイーツ。
1998年から親しまれているロングセラー商品だ。

 

僕がこれを初めて食べたのは、高校生の頃だ。
試験の日だったか何の日だったか忘れてしまったが、午前中で終わるような日だった。
家に帰る前に立ち寄った近所のコンビニエンスストア雪苺娘を発見した。
その店は家の最寄りではなかったのだけど、笑顔の素敵な美しいお姉さんが働いていて、僕はその笑顔を見たい一心でよく利用していた。
平たく言うと惚れていたんだ。

いつもはスナック菓子やジュースなんかを買っていたのだけれど、その日はスイーツの棚に飾られた「新発売」のPOPが目に入り、なんとなく手に取ってみた。
レジでお会計をすると、お姉さんが「これ美味しいよね」と微笑みかけてくれた。
ハードボイルドに憧れを抱いていた僕に、苺のスイーツは不釣り合いな気がしたが、とにかく僕は雪苺娘を買って帰った。

雪苺娘は、お姉さんの言う通り美味しかった。
もちもちの食感とふわふわなクリームに苺の甘酸っぱさが相まって、絶妙なハーモニーだった。

その冬僕は雪苺娘を何度か買っては食べた。
お姉さんのいるときだけ。
お姉さんにアピールするように。

この話はそれ以上でもそれ以下でもなく、ただ何というか、それだけの話だ。

 

ところで今日は、昨日からの強烈な寒波により、僕の住む地域にも雪が積もった。
在宅で仕事をすることにして、普段はなかなかできない息子の幼稚園の送迎を僕がすることにした。 
息子を幼稚園に送り届けた帰りに、必要なものを買うためにスーパーマーケットに立ち寄った。
そこでみつけた雪苺娘
苺フェアなるものの一角に冷蔵のワゴンがあって、中にはたくさんの雪苺娘が並べられていた。
なんだか懐かしくなって、十数年ぶりに食べてみることにした。

その美味しさは当時のままで、求肥もクリームも苺も何も変わっていなかった。
いや、毎年改良はされているのかもしれないが、当時と同じ味と感じるくらいなので劇的な変化はないだろうと思う。

ただ、ひとつだけ違ったのは僕の方だ。
たっぷりのクリームがいささか重たすぎたのか、おなかがずっともたれているような気がした。
十代の僕と三十代も半ばの僕とでは、体の機能も変化しているのは当然のことだ。
いくつもの年月が過ぎていったことを感じずにはいられなかった。
そして、あの日のお姉さんの笑顔や声を忘れていってしまっている自分がそこにいた。

思い出は甘く、そして淡い。
粉雪のように消えていく。