今ぼくの目の前に広がっているのはアフリカの大地。
遥か遠くに見える地平線には、今まさに陽が沈もうとしている。
オレンジ色の空をバックにした野生動物のシルエットは、愛を確かめ合う恋人同士のようだ。
耳をすませばキリンだろうか、ライオンだろうか、動物の泣き声が遠く聞こえる。
僕は目を閉じ、生きている感覚を確かめる。
「おかあさぁーん、うんちでたー」
の声に我に返る。
目の前に広がっていたのはアフリカの大地ではなく、きかんしゃトーマスとドラえもんのシールで埋め尽くされたテーブルだ。
恋人同士に見えたのは、ガチャガチャで引き当てたキリンとシロクマの小さなフィギュアだし、聞こえていたのはもうすぐ一歳になる娘の泣き声だった。
どうやらぼくは激しい錯覚に陥っていたようだ。
この錯覚が何に由来しているのか。
ドライフルーツだ。
ガーナ産 オーガニック ドライパイナップル。
そしてドライマンゴー。
友人のおかたむさん(と勝手に言っているがきっと大丈夫だ、そう信じている)が運営するSOLASIS Japan より購入したものだ。
保存料なし、砂糖なし、化学肥料その他の添加物一切なしの、手間暇かけて作られた無添加ドライフルーツ。
一口食べると、口の中には凝縮された甘みと旨味がぶわっと広がっていく。
この広がりの中には、遠いアフリカの大地と、時間をかけて丁寧に果実を育てる農園の風景が含まれている。
冒頭に僕が見たのは錯覚ではなかったのだ。
そんなことを思いながらも、次の一つを求める手は止まらない。
パイナップル、マンゴー、パイナップル、マンゴーと、そのひとつひとつをしっかりと噛みしめ味わっているうちに、あれよあれよと無くなっていく。
正直に打ち明けると、ぼくはもともとドライフルーツが苦手だった。
風味の強さと、もったりとした甘さ。
おそらくはこの二つが原因だったと思う。
一度持ってしまった苦手意識を払拭するのむずかしく、ぼくは長い間ドライフルーツを敬遠していた。
けれどもおかたむさんが始められたSOLASISの無添加ものを見たとき、おかたむさんの語るストーリーを読んだときに、これなら食べられるんじゃないかと思った。
それは間違いじゃなかった。
SOLASISは教えてくれた。
フルーツ本来の甘みで充分にジューシーであること。
ぼくの抱いていたイメージの、重たい甘さとは対照的な爽やかな酸味も含んでいること。
そして、それはささやかな幸せをもたらしてくれることを。
ぼくは感じる。
ぼくが今噛みしめているのは果実だけではない。
地球の裏側から届けられた想いそのものだ。
このドライフルーツには、添加物や砂糖の代わりにたくさんの想いが詰まっている。
造り手パトリックさんによる日本への恩返しの想い。
貧困のない公正な社会を目指すフェアトレードに関わる人たちの想い。
未来を見据え挑戦するおかたむさんの想い。
商品に添えられていたパンフレットには、SOLASIS Japanの理念が記載されている。
その一節に
昨日より今日、今日より明日。
生きる喜びを感じ、人生にワクワクできる。
偽りのない自分でいられ、自分をもっと好きになれる。
自由に夢を言葉にし、挑戦できる人生を送る
とある。
これを見たとき僕はSOLASIS Japanを、おかたむさんを応援しようと決めた。
いや、もともと応援するつもりで買ったのだから、正確にはその思いを強めたということになる。
ここに一冊の手帳がある。
ぼくが2018年に使っていた手帳だ。
最初のページに、その年の決意表明のようなものが書き殴られている。
昨日より今日、今日より明日が良い日になるように。
人生は一日一日、一瞬一瞬の積み重ね。
今日という日が常に最高であるように。
この不思議な一致を見たとき、ぼくも頑張ろうと思った。
アフリカの燃える陽のように。