カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.10.29(日) 『貝に続く場所にて』

パンを買いに行く。
ミニクロワッサンや塩パン、ベーコンエピなどを家族の好みとリクエストを考慮しながら適当に買う。
サンドイッチは売り切れていた。
今まで見たことのないチョコレートドーナツがあって、迷った末に見送った。
このようなときは往々にして、買っておけばよかったとあとから思うのだが、案の定である。
あのドーナツが気になってしょうがない。
あのドーナツのことを考えながら石沢麻依『貝に続く場所にて』を読む。
文章がきれいだ。

ゲッティンゲンは時間の縫い目が目立たない場所である。ひとつの時間から別の時間へ、重ねられた記憶の中をすいすいと進んでゆくことができる。ドイツの多くの都市と同様に、歴史が厚く貯められた旧市街を核とし、それを囲んで覆うように街は四方にはみ出して広がってゆく。円形の旧市街は、市壁跡にくるりと囲まれている。すでに壁は取り払われ、代わりに森が薄く円環状に取り囲み、その中を小道が縫い、森林散策愛好者の足が踏み固めてきた。旧市街の端から端までは半時間でたどり着き、歩き回って把握しやすい大きさである。その中に組み込まれた通りをなぞってゆけば、時間が多面的な構造を重ねていることに気づくのだった。

石沢麻依『貝に続く場所にて』(講談社)

日曜の昼下がりに、窓から入ってくる涼しいを受けながら美しい文章を読む。
森林散策愛好者になった気分で読んでいると、そのうちうとうとし始める。
頭の片隅にはチョコレートドーナツがある。
ドーナツを夢見ながら眠りにつく。


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