カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.7.21(金) 「相客」庄野潤三

今日が終業式の小学生二人を学校へ送り出し、朝一のスーパーへ行く。
開店直後のスーパーは人気がない。
閉店間際の人気のなさとも違う雰囲気で、これから一日が始まるんだという空気が店中に漂っている。
入口でかごを取るときに、すでに買い物を終えた老人とすれ違う。
老人が着ていた白い開襟シャツには黒い波のような模様があしらわれ、裾の部分に「DRAGON」と書いてあった。
野菜コーナーから順番に店を周回する。
各コーナーにはこれから棚に並べられる品物たちが、ジェンガのように高く積まれている。
唐突に村上春樹の『海辺のカフカ』で、星野青年が自分の局所をピサの斜塔に見立てた比喩を思い出した。

謝肉祭の季節を迎えたピサの斜塔みたいに前向きで、しっかりとした勃起だった。

引用元:『海辺のカフカ村上春樹

謝肉祭という響きが妙に生々しい。
雑念を振り払うように、必要なものだけピックアップしていく。
人が少ないので移動がスムーズだ。
会計もいつもは行列ができているレジがガラガラで、違う店の様だ。
と言っても、この店ではレジゴーというシステムを使っているので、いつも行列とは無縁なのだけれど。
そのレジゴー専用のレジにしても、人が少ないのでいつもにも増して早く会計が終わる。
店を出ると、朝から容赦のない熱気にさらされ溶けそうになる。
登校中の小学生たちとすれ違いながら帰宅する。

蝉の声をBGMに本を読む。
夏の読書もこれはこれで風情がある。
読んだのは庄野潤三「相客」。
舞台は戦後、主人公の男が南方の孤島であるレバノン島での俘虜生活から還ってきた兄のことを回想する形式の話だ。
兄が帰国して1年経った頃、収容所で責任のある地位にあったことから戦犯としての容疑をかけられてしまう。
住んでいた大阪から東京まで、警察に護送される兄に付きそう形で、列車で同行したときの話が語られる。
この作品で語られるのもやはり「戦後」であり「家族」のことだ。
庄野作品の中に流れる空気みたいなものを、少しずつではあるがつかめてきた気がする。
夏に読むの短編として申し分のないことだけは言える。


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