カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.8.25(金) 乗代雄介「センリュウ・イッパツ」

またハヤシライスを作ってしまった。
今月2度目のハヤシライスだ。
月に2回は多い方じゃないだろうか。
カレーならまだしもハヤシライスだ。
ちなみに今月カレーは1回だけだ。
ハヤシライスの頻度がカレーを上回ることがあろうとはだれも予想できなかっただろう。
今日も小説は読めず、乗代雄介『掠れうる星たちの実験』から掌編「センリュウ・イッパツ」を読んだ。
これは『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』の系譜に連なるようなナンセンスもの。
舞台は高校の教室、昼休みの一コマの話だ。
昼休みの教室の静けさが、小柄なバスケ部員の一言で打ち破られる。

「上田涼子が渡り廊下のガラスに突っ込んだ! ガラスは粉々、上田は血だらけ!」

引用:乗代雄介「センリュウ・イッパツ」

突然飛び込んできた事件を見んと、生徒たちは教室を飛び出し現場へ向かう。
教室には三人の生徒が残った。
予習の課題をこなす山名孝彦。
スマホを見る南進也。
女子グループのみんなと一度立ち上がったものん、スッとグループから離脱した椎橋渚。
静かな教室の沈黙を打ち破り、椎橋と南の会話が始まる。
課題をしながらマジメな山名がその会話を聞いているという構図だ。
どうやらガラスに突っ込んだという上田さんは、好意を抱いていた南に告白を断られたことがわかってくる。
すると、それを聞いた山名の首が一回転するという記述が出てくる。
この辺で、ん?と思うが、よくわからないけれどもレトリックのひとつかなと思い読み進める。
椎橋は上田が告白を断られたことを知らなかったと言う。
それどころか、上田からは南と付き合っていると聞かされていたようだ。
ここでまた山名の首が回転する。
5回転。
ふたりの会話が進むにつれ、どんどん山名の首が回っていき、最終的には108回転し、回りながらせり上がった頭部は天井に当たりそうになる。
回転?何かの比喩かな?大げさに表現してるだけか?と真面目に考えていたことがあほらしくなり、ようやくナンセンスものかと気付く。
なんだかしてやられたような気分になる。
最終的に山名が迎える結末も衝撃だが、その頃には結末なぞどうでもよくなっている。
静かな昼休みの教室の空気を伝える描写との対比も、ミスリードっぽくてやられた感がある。
この辺の塩梅が面白い小説家だなと思うのである。


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