カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.8.30(水) 「ウェイクフィールド」

昼すぎ、タリーズに立ち寄る。
タリーズではブラッドオレンジジュースを飲むことが多く、今日もそうしようと思っていた。
レジで順番を待っていると、シーズン商品なのかブラッドオレンジジンジャーエールなるものをみつけたのでそちらを注文してみた。
オレンジ風味の辛口でなかなか良い。
ジンジャーエールは辛口の方が美味しい。
目の前の席には、テニス帰りのレディがパスタを美味しそうに食べている。
パソコンや資料を広げ仕事をしている人、勉強をしている人、本を読む人、適度に空いている店内で、みな快適そうに過ごしている。
私も適当に本を開いて読み始める。
しばらくすると、おじいさんの席に店員さんが「お待たせしました」とアイスコーヒーを運んできた。
おじいさんは「ストローは?」と横柄な態度でストローを所望する。
そんなもんセルフで取ってこいやと私は思ったし、店員さんも思ったに違いない。
そんなことを言ったところで、じいさんの癇に障るだけだということはわかるので、店員さんも「お待ちくださいね」とすぐにストローを持ってきた。
今度は大きな声で「ありがとーう!」とじいさん。
その気持ちがあるのなら、最初から横柄な態度などいらないのに。
じいさんの感覚からすると、ストローがついてくることは当たり前なのだろう。

そんなタリーズでは、バッグの中に潜ませておいた文鳥文庫のナサニエル・ホーソーンウェイクフィールド』を読んだ。
設定というか着想が面白い。
語り手が古い新聞か何かで見つけた記事の概要が冒頭数ページで述べられる。
ロンドンの街に住んでいた夫婦の夫、ウェイクフィールドがある日ちょっと旅行に出るといったきり、20年以上帰ってこなかったという話だ。
面白いのはこのウェイクフィールド氏、行方をくらましていた20年以上ものあいだ、自宅の隣の通りに部屋を借りてそこで暮らしていたという点だ。
ウェイクフィールドは毎日、自分の家やそこで暮らす妻の様子を頻繁に見ている。
この常人ならざる奇行やその心情について残りのページで語られることになるがそのディテールよりも、冒頭に示されることのあらましの時点で、なんというか勝ちが確定しているような物語だ。
傑作とはこういうものをいうのだなと思わされる。


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