カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.7.28(金) 『モンテーニュ入門講義』山上浩嗣

今日は何にもしなかったなあ、というような日がある。
それはそれでいいかと思う一方で、やはりどこかうしろめたい。
次にそんな日があったら、その日はモンテーニュの『エセー』を読もう。
モンテーニュ入門講義』を読んで、そう思った。

モンテーニュの至った境地は、「今日は何もしなかった」と語る人、今日一日を生きのびただけという人を全肯定することです。彼は、偉大な事績や他者からの尊厳を望むような生き方を捨て、この世に生を与えてくれた自然に感謝し、心身の双方で感じられる日常のささやかな喜びを享受することを最上の幸福とみなすのです。

引用元:山上浩嗣モンテーニュ入門講義』(筑摩書房)

『エセー』とは、ひとりの人間が、自分の判断力を鍛え、よき生き方を探求する試行錯誤の過程そのものです。読者は、モンテーニュという人物の思考や行動を目にして、自分ならどうするかという思索に誘われ、自分自身のよき生き方の探究に導かれます。『エセー』の魅力は、著者が偉人だといういう点にあるのではありません。反対に、著者が多くの人間と同じく誤りや欠点に満ちている点に、そして何よりも、本人がそのことを自覚し、それでも次々にふりかかる艱難になんとか対処し、人生を朗らかに楽しもうと心がけている点にあるのです。われわれは、彼の考えのすべてに同意するわけではありませんが、そのような生の姿勢そのものに共感し憧れるのです。

引用元:山上浩嗣モンテーニュ入門講義』(筑摩書房)

試行錯誤の過程になぞり、自身のよき生き方の探究に目を向け、最後には生そのものを肯定する。
『エセー』はそのヒントを与えてくれるという。
本書は、著者が行った大阪大学での講義の内容をまとめたものを元に加筆修整されたテキストだ。
疑似的に山上先生の授業を受けられるというのが、私にとっては嬉しいことだ。
というのも私は大学生の頃、山上先生のゼミに2年間所属していたからだ。
当時先生は違う大学に所属されていて、フランス語およびフランス思想の講義を持たれていた。
3年生への進級に伴うゼミ選択の際に、一番興味を惹かれたのが山上ゼミだった。
自由闊達なゼミで楽しい2年間をすごさせていただいたし、未熟な私たちにものを考えることの大切さやその方法を手ほどきしてくれたことに恩義を感じている。
時を経て、また先生の授業を体感できるのは、(たとえそれがテキストベースだとしても)ありがたいことだ。
買ったのはずいぶん前だったが、やっと読み始めた。


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