カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.4.5(水) ルマンド、マールボロ、キリンビール

お菓子はブルボン。
昨日はもっとも愛好する菓子、チョコあ~んぱんについて書き、セブンイレブンで買ったそれを食べた。
安定の美味しさだ。

今少しずつ読んでいる『おいしいアンソロジー おやつ』の中にブルボンを発見した。
タレントの伊集院光氏は子どもの頃のおやつ事情について書く中で、おばあちゃんの家に行くと必ずお菓子がもらえたことを言っている。
その多くがブルボンだったとも。

 

それとおばあちゃんがくれるお菓子はなぜかブルボン系だった。僕だけかと思ったら友人の渡辺君も賛成したのでいい切る事にする。おばあちゃんのくれるお菓子は絶対ブルボン。「ホワイトロリータ」とか「ルマンド」とか。

 

おばあちゃんに限らず、人からもらうお菓子はブルボン率が高いことは多くの人が同意するのではないだろうか。

子どもの頃、僕は団地に住んでいた。
団地の中心には公園があり、団地に住む子どもたちはみんなそこで遊んでいた。
学年関係なくそのときの人数や構成メンバー、状況に応じて遊びを選んだ。
公園に行けば誰かがいて、いなければ誰かを呼びいにって。
でもときどき、誰も遊ぶ相手が見つからないこともあった。
そんなときは近所をぷらぷら歩いた。
何をするわけでもなくぷらぷらと。

 

小学2年生のときだったと思う。
ある日、ぷらぷら歩いていたときに遭遇したのがNだった。
Nは同じ小学校の隣のクラスの同級生で、存在は知っていたがしゃべったことはなかった。
Nは団地から少し離れた地区に住んでいることは知っていたので、ここにいることを不思議に思った。
あ、Nだ。
私がそう思うのと同時に向こうも、「あ、Kくんだ」と思ったのがわかった。
Nは開口一番、
「これ、いる?」
とポケットから何かを取り出した。
ルマンドだった。

突然のルマンドに戸惑ったものの、当時、すでにその美味しさに開眼していた私は、ありがたく受け取ることにした。
すぐに開封し、食べた。
甘かった。
ぼろぼろこぼれた。

それからNとふたりでその辺をぷらぷらした。
Nがなぜここにいたのかもわかった。
Nのおばあちゃんの家が団地のすぐ近くにあって、その日はおばあちゃんの家に来ていたが暇だったのでぷらぷらしているということだった。
ルマンドもおばあちゃんの家にあったもののようだ。
おばあちゃんのくれるお菓子はブルボンなのだ。

Nと団地で遊んだのは後にも先にもその日だけだった。
今思い出してみても不思議な一日だった。

3年生になると私とNは同じクラスになった。
仲良くなって一緒に遊ぶことも増えた。
ある日、Nの家に遊びに行くことになった。
Nの家は少し古い4階建ての集合住宅の1階の部屋だった。
玄関を開けたると、とても暗かった。
明かりをつけても暗いという印象は変わらなかった。
肌で感じた空気から、いい暮らしをしているわけじゃないことが、子供ながらにわかった。
Nの家ではゲームをした。
スーパーファミコンがんばれゴエモンだった。
名探偵コナンの漫画があった。
初めてコナンに触れたのはNの家だった。

中学生になりしばらくすると、Nは学校に来なくなった。
ヤンキーになったことに驚きはなかった。
私たちは友達のままだった。
遠い日のルマンドのことを憶えているともなく憶えていた。

気まぐれなのかなんなのか、Nはときどき学校に来るようになった。
髪は金髪で、ダボダボのズボンに丈の短い学ランだった。

ある日、Nは私に言ってきた。
「HIDEのベスト買ったらしいやん。貸してよ」と。
翌日、HIDEベストを持って行くと、代わりに同じ時期に発売されたUDY AND MARYのベストアルバムを貸してくれた。
案外律儀だった。
お礼を言うとNは
「これ、いる?」とたばこを一本取り出して私にすすめてきた。
マールボロだった。
ルマンドのときと同じだった。
私は「ああ」と言いながら受け取ったけど、「やっぱいいや」と返した。
学校でたばこを吸う勇気は私にはなかった。

中学を卒業すると、Nに会うことはなくなった。

次にNに会ったのは、同窓会だった。
「Kくん、久しぶり、飲もうよ」
酔っぱらったNは陽気だった。
このときすすめてきたのは瓶ビール。キリンビールだった。
いつもより少し苦い気がした。

 

思い出はいつだって甘くて苦い。
いつかはたばこの煙のように消えていく。