カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

【読書日記】2023.3.30(木) まだ読んでいない『ドーナツを穴だけ残して食べる方法』

昨日の記事で、羊男がドーナツを6個も食べて、食べすぎだと書いた。
それで思い出したことがある。


大学生の頃、一人暮らしをしていたアパートの近所に少し大きめのショッピング施設ダイエーがあった。
普通のスーパーより大きく、イオンモールよりは小さい規模のダイエー
地下1階が食品売り場。
1階はファッションや美容、雑貨など暮らしのフロアで、2階は家電や本屋などが入っている地方によくあるショッピング施設だった。
日々の買い物のほとんどすべてをそこで賄った。
と言っても自炊はしなかったので、頻度としてはコンビニに行く方が多かったと思う。
だから、ほとんどすべては言いすぎかもしれない。
だけれども、大学生活での買い物シーンを思い返す時、浮かんでくるのはコンビニではなくそのダイエーのことだ。
店内BGMはJ-POPをインストゥルメンタルにアレンジしたもので、各フロアを行き来するときに乗ったエスカレーターや、サッカー台で荷詰め作業をしているときの光景が、その音楽と共に強く結びついて思い出される。
ケツメイシの「涙」、一青窈の「ハナミズキ」、歌のない一本調子の味気ないアレンジがなぜか哀愁を誘う。

 

時に夢やぶれ涙溢れ
まだある先進むべき明日へ

     「涙」ケツメイシ

 

夏は暑過ぎて 僕から気持ちは重すぎて
一緒に渡るには きっと船が沈んじゃう

       「ハナミズキ一青窈

 


まるで心のどこかに丸い穴が空いているみたいだ。
そろそろドーナツの話に入ろう。

 

ダイエー地下の食品売り場の隣には小さなフードコートがあった。
そのなかのひとつがミスタードーナツだった。
当時の私は今ほどにドーナツへの関心がなかった。
フードコートを利用することはなかったし、ミスドでドーナツを買うこともほとんどなかった。
唯一の機会を除いて。

単純な話だ。
ときどき、閉店間際になると残ったドーナツを売りさばくために特価になった。
10個で500円。
破格だ。
この価格で売られているミスタードーナツはこのとき以外見たことがない。
血気盛んな10代の私はドーナツを10個買った。
なるべく好みのドーナツを選んで。
家に帰ってドーナツを食べた。
貪りついた。
野獣のように、羊男のように。
食欲と性欲は似ている。
単に空腹だったのか、愛に飢えていたのか。

「何かをするにはまずおなかをいっぱいにしなくっちゃ」
羊男の声がこだました。

「こだまでしょうか。いいえ誰でも」
金子みすゞの声に引っ張られる。

万有引力とは 引き合う孤独の力である」
谷川俊太郎が宇宙はひずんでいると言っている。
宇宙はどんどん膨らむと言っている。

私の胃袋もどんどん膨らんでいる。
いったいドーナッてんだ。
胃に穴が空く前に食べるのを止めなくては。
食べるのを止められないなら、せめてドーナツの穴だけは残そう。
どうやって?