カフェオレの泡

浮かんでは消えていく泡のようなもの

嫌われる春樹

村上春樹が好きだ。

村上春樹について語りたいと思う。
と言っても僕の拙い文章では、その魅力を充分にお伝え出来そうにないので、今回は対話形式の物語を用意した。
タイトルをみてわかると思うが『嫌われる勇気』のパロディだ。

悩める青年「僕」が哲人春樹に恋愛相談をしている場面として読んでほしい。
ちなみに「僕」は村上春樹の作品で、主に名前のついていない主人公の人称としてよく使われているものだ。

村上春樹の世界観というか雰囲気というか、を少しでも感じ取って頂けると嬉しい。

 

―――――――――――――――――――――

青年『僕』(以下、僕):先生、悩みがあります。聞いて頂けるでしょうか?

哲人春樹(以下、哲人):正直に言って、僕は自分の話をするよりは他人の話を聞く方がずっと好きである。*1

僕 :僕には彼女がいるのですが、実は、

哲人:22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。*2

僕 :彼女の名前はすみれではありません。ちゃんと聞いてください。実はその彼女と、この先うまくいやっていけないような気がして哀しいのです。

哲人:僕は思うんだけど、深い哀しみにはいささかの滑稽さが含まれている。*3

僕 :滑稽だなんてそんな。真面目に聞いてください。彼女が僕のことを理解してくれているようには思えないんです。

哲人:ひとりの人間が、他のひとりの人間について十全に理解するというのは果たして可能なことなのだろうか。*4

僕 :僕は僕のことをもっと知ってほしいだけなんです。それは難しいことなのでしょうか?

哲人:期待をするから失望が生じるのだ。*5

僕 :そりゃぁ期待だってしますよ。僕たちはもう何年も付き合っているんです。それなりに関係も築いてきたつもりです。それなのに・・・

哲人:進化とはそういうものです。進化は常につらく、そして寂しい。楽しい進化というのはありえんです。*6

僕 :そんな・・・。これから楽しい未来があると思っていたのに。絶望的な気分です。

哲人:絶望のない至福なんてものはどこにもない。それが俺の言う自然ということさ。*7

僕 :幸福のために絶望が必要だなんて、僕は想像するだけで苦しくなってきます。先生は苦しくないのですか?

哲人:僕は本質的に楽天的な人間なんだよ。*8

僕 :どうしたら先生のように楽天的になれるのでしょうか?

哲人:踊るんだよ*9

僕 :先生、何を言ってるのかよくわかりません。そもそも僕はダンスは苦手です。うまく踊れる気がしません。

哲人:僕らはとても不完全な存在だし、何から何まで要領よくうまくやることなんて不可能だ。*10

僕 :なるほど。不完全を受け入れるということか・・・。

哲人:認識とはそういうものです。認識ひとつで世界は変化するものなのです。*11

僕 :ではどうやって受け入れていったらいいのでしょう?

哲人:物事というのは、ひとつひとつの具体的なイメージを段階的に積み重ねることによって前に進んでいく。*12

僕 :つまり、ひとつひとつの具体的な課題をクリアしていかなければならない。これは僕に与えられた試練ということですね?

哲人:希望のあるところには必ず試練がある。*13

僕 :その試練を乗り越えた先に、希望があり幸福があると。そういうことですか!

哲人:この世界には確かなことなんて何ひとつもないかもしれない。でも少なくとも何かを信じることはできる*14

僕 :なんだか力がみなぎってきました!ありがとうございます!

哲人:やれやれ

 

おしまい

 

 

 ※参考文献・引用元は下記脚注の通り。著者は全て村上春樹